「可愛かったねー」 「そっかぁ? なんか猿みてーだったぞ」 「兄さんにそっくりだったよ」 「………それはオレが猿だと言うことか弟よ。オレにはむしろお前に似て見えたぞ、タレ目でふくふくしてて」 憎まれ口を叩きながらもとろけそうな照れた笑みを浮かべているエドワードに、アルフォンスはくすくすと笑った。 「髪の毛はウィンリィだね。綺麗なプラチナブロンド」 「目玉も青がいいなあ」 「兄さん、ウィンリィの眼、好きだもんね」 「じゃなくて、金眼ってやっぱちょっと異様だろ。ぎらぎらしてて人相悪ィし」 「それは兄さんの目付きが悪いだけだと思うんだけど」 「るっさい」 くすくすと笑い合い、待合室のソファに並んで腰掛けてアルフォンスはねえ、と兄を窺った。 「名前、もう決めたの?」 「あー……んー……」 エドワードはわしわしと金髪を掻き混ぜ、ちらり、と照れた目をアルフォンスに向けた。 「あのさ……」 「うん?」 「……アルフォンスって付けちゃダメか?」 アルフォンスはかしゃり、と小さく音を立てて首を傾げた。 「………あのね、兄さん」 「ダメか?」 「ダメって言うか」 アルフォンスは肩を竦める。 「この子が大きくなってお父さんになっておじいちゃんになって、それでもボクはずーっといるんだよ? 同じ名前じゃ不便だと思わない?」 「んじゃ、アルフォンス・ジュニア」 「いやボクの息子じゃないから」 冷たく突っ込み、アルフォンスはふー、と呆れたような、けれど笑みを含ませる声を洩らした。 「それより、エドワードって付けなよ、兄さん。エドワード・エルリック・ジュニア」 「へ?」 アルフォンスは小さく密やかに、息を洩らすようにして笑った。 「それでね、ジュニアの息子もエドワードって付けるんだ。ずっとずっと、兄さんの息子たちは、エドワードって名前なんだよ。ボクはずーっとエドワードを見守って行くんだ」 「………アル」 「ねえ、素敵だと思わない? 兄さんやウィンリィのこどもたちと、ボクはずっと一緒にいるんだよ」 ねえ、兄さん。 素敵だと言って。 エドワードは僅かに眉を寄せるようにして笑った。苦しそうなその顔は、けれどきちんと笑みの体裁をとっていて、だからアルフォンスはふふ、と笑い返すことが出来た。 「………んじゃ、エドワード、な」 「うん」 「息子をよろしくな、アル」 「やだな、気が早いよ、兄さん。これから兄さんとウィンリィで育てて行かなきゃいけないんだからね」 「あー、でもお前のほうが子育て上手そうじゃねぇ?」 「そんなこと言って、押し付ける気満々なんだね、兄さん……」 「そういうわけじゃねーけどさ」 白々しく耳を掻く兄に「もう、兄さんて」と肩を落とし、それでもアルフォンスは笑った。 「エドワードの弟や妹も作りなよね」 「………お前こそ気が早ェぞ」 「いいじゃない。兄弟はいたほうが楽しいよ」 ね、と同意を求めて首を傾げる弟に、エドワードは微笑んだ。 「オレとお前みたいに?」 アルフォンスは頷く。 「ボクと兄さんみたいに」 「………そうだな」 エドワードはアルフォンスの兜へとひたりと生身の左手を当てた。 「弟を作ってやろう」 「そんなの神様にしか解んないよ」 「いーや、弟だ。エドワードの兄弟なら弟しかない」 「そんなこと言って、妹だったらどうするつもりなんだよ……」 「そしたらもう一人作ればいいだろ」 あ、そっか、とアルフォンスは笑う。 「兄弟がたくさん出来るね」 「あんま多過ぎても困るけどなー」 「いいじゃない、楽しいよ」 「………お前人事だと思ってるだろ……」 そんなことないよう、と笑いながら、アルフォンスはまだ面に触れている兄の手に鉄の掌を重ねた。 「………おめでとう、兄さん」 「……ああ」 「幸せにしてあげてね」 「………ああ」 「兄さんも幸せになって」 「オレは幸せだよ。お前がいて、ウィンリィがいて、子供が出来て」 まるでお前の分の幸せまで喰ってるみたいだ。 アルフォンスは密やかに笑った。 「兄さん。ボクは幸せだよ。ずっと幸せ」 兄の手がアルフォンスの掌から抜けだし、面の継ぎ目、口の辺りをなぞる。 アルフォンスは息を吐くような笑い声で空気を震わせた。 「ボクは自由なんだよ、兄さん」 「…………アル」 「自由に行ける。いつでも、どこにでも、好きなときに、好きなところへ」 ───好きなひとのところへ。 「我が侭聞いてくれてありがとう、兄さん」 「………もっと我が侭言えよ」 アルフォンスは答えず、軽く肩を竦めてくすくすと笑った。 |
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■2004/6/30 アルのエゴ。
アルも結構エゴは強いと思います。
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