大佐の受難

 
 
 

「あーなんでアンタみたいなへたれが男でオレみたいな男前が女なんだろすげー不思議。なーそう思わない?」
「思わない」
「あー腹痛い凄いやだなんなの面倒臭ぇよ子供産む気もないのになんで生理なんかあんだろ」
「どうして子供を産みたくないのか解らないな」
 ロイはソファでだらしなく伸びている少女に顔も上げず滞りなく書類に目を走らせながら溜息混じりに答えた。
「せっかく女性に産まれたのだから一度くらい出産してみればいいのに。もったいないじゃないか」
「やだよ。産ませてみたいとは思うけど産むのはやだ。大体出産すると寿命縮むんだぜ」
「長生きしたいのか」
「アル残して行けるわけねーだろ。オレはアルより長生きすんの」
 ああそう、といつもの惚気にやる気なく返し、書類の山に手を伸ばし次の束を手に取ったロイに、むくり、と起き上がった少女はきらりと猛禽のような眼を光らせた。
「なあ、大佐。アンタのちんこくれよ」
「おーい中尉ー。このよく解らない生き物を私の目の前から撤去してくれないかな」
「なにがおーいちゅうい〜、だよ。甘えた声出してんじゃねーよ無能」
「私の子供が産みたいとかそういう話か」
「なんでオレがアンタの子供産まなきゃねんだよ。種じゃなくてちんこくれっつってんだろ、種も外側もくれよ。代わりにオレの子宮と卵子やるから」
「いらない」
「遠慮すんなって、オプションで胸も付けてやるから。アンタも男なんだから好きだろおっぱい。なんならひとりくらい子供仕込んでやってもいいし」
「お断りさせていただく」
「なんで。アンタさっき一度くらい出産してみてもとか言ってたじゃん」
「それは女性に産まれた場合の話だ。大体そんな実現不可能な話を真面目にする意味があるのか」
「アンタがくれるって言うならオレ式考えるからさ!」
「やらんから無駄なことはするな。というか、だったら是非にも女になりたい男を探せばいいだろう。何故私なんだ」
 えーだって、とエドワードは大きな眼をぱちぱちと瞬かせた。
「アルがさー、結構アンタとは仲いいからさ」
「………アルフォンス君と仲がいいと何故君と性別を交換しなくてはならないんだ?」
「だから、交換したとこで子供が出来たとしたらオレが仕込んでも交換した相手の遺伝子だろ? 全然知らない他人の精子じゃアルが可哀想じゃん」
 ロイは僅かに沈黙した。
「……………いや、話がよく見えない」
「でもアンタならまー、そんなに酷く不細工だとか馬鹿だとか言うことはないだろうし、性格は悪そうだけどアルが母親なら大丈夫だと思うし、黒髪だったりしたらオレちょっとやだけどでも半分アルの遺伝子だって思えばメチャメチャ可愛いし」
「おいこらひとの話を聞け鋼の。何の話だ」
「だから、オレとアルの子供の話」
 やめてくれ、と口の中で唸ってロイは思わず上げてしまった顔を片手で覆って天井を仰いだ。
「君………常々変な子だとは思っていたが、変どころか変態だったのか」
「変態言うな。テメェこそ変態だろうが。女なら誰でもいいくせに」
「まあゆりかごから棺桶までレディには優しくがモットーだが」
「だったらオレにも優しくしてよ。ちんこくれ」
「そういう下品なことを言う子がレディだとは認めたくない。大体君は異性願望があるんだろう」
「なにが下品だよ。ヤってるときにはどーせ女にちんことかまんことか言わせてるくせに」
 どこの低俗雑誌の話だそれは。
「…………今改めて子供だけで旅をさせるのは教育上どうかと思ったよ」
「子供って言うな」
「子供だろう」
「アンタ優しくない。オレも女なのに」
「そんな真っ平らな胸の15歳が女性なわけがな」
「誰がソースの染みもよく落ちる洗濯板だアァ!?」
「その喩えは侮辱なのかなんなのか解らないがそんなことは言っていない。……とにかく」
 はー、と疲れた溜息を吐いてロイはひらひらと追い出すように片手を振った。
「君の報告書はまだ処理できないから、1、2時間ばかりどこかで時間を潰して来い」
「えー、いいじゃん。この部屋が一番あったかいんだよー。腹痛いんだって。アルもどっかいっちゃって暇だしさー」
 多分犬と遊んでんだぜあいつかっわいーよなー、とへらへらと笑った少女にそう言えば、とロイは顎を撫でた。
「さっき裏庭でハボック少尉と犬を撫でてたな」
「…………は!?」
「彼女は少尉と仲がい」
 言葉尻に被るようにどかんと凄い音を立てて扉を開き飛び出して行った赤いコートの弾丸に、ロイはやれやれと溜息を吐いて万年筆を握り直した。

 
 
 
 
 

■2005/2/20
大佐が大嫌いなのに物凄く懐いている姉さんとこの子ほんとどうにかならないかないっそ男の子だったらまだ平和だったのにと思っているあらゆる姉さんの発言を本気にしていない大佐。本気だと知ったら呆れるより怯える。凄い勢いで身体(部分)狙われてる。

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