早朝の冷気を背負い、小さく馴染みの気配がした。 ロイはふ、と吐息をついて、浮上しかけた意識を再び眠りに落とす。気配は静かに傍らへと歩み寄り、何をするでもなく佇んでいる。 額に、熱。 すぐに離れたその熱は、わずかに逡巡した後唇を掠め、ゆっくりと静かに立ち去ろうとする。 (………まったく) 帰ったのは朝方なんだぞ、まだ寝入ってからそうも経っていないというのに、と胸の裡で毒突いてロイは寝返りを打った。 「………鋼のか」 気配がぴくりと竦むように震えたのが見ずとも解る。素直な反応にブランケットに隠れた口許を綻ばせて声を出さずに笑い、ロイは閉じようとする瞼を薄く瞬かせながら上げた。 赤いコートを纏ったままの、冷えた金髪に、雪のひとひら。 「あ、ごめん……仕事だったんだろ?」 「………昼からなら司令部に来れば会えたものを」 「や、そうなんだけど」 「それでは不満か?」 含みを持たせたつもりはなかったが、どう捉えたのか子供は一拍を置いて赤面し、それからむっと唇を尖らせた。その唇が寒さに色を無くし、白い。 「ひとをヤりたいだけみたいに言うな!」 「………………。……降誕祭の朝っぱらからしたいだけで強襲を掛けたのだとすれば燃やすところなんだが」 ふ、と嘆息し、閉じてしまいそうな眼を宥めてロイはブランケットを上げて見せた。眠気に霞む視界の中、子供がぱちくりと瞬く。 「早くしろ、寒い」 「………へ?」 「コートと上着を脱いで、早く入れ」 子供はぽかんと金の眼を丸くしていたが、更に急かしブランケットを支えていた腕を下ろす仕種を見せると慌ててコートを脱ぎ、上着の袖を抜きながらブーツを放って隣へと潜り込んできた。その冷えた身体を腕に抱き込むと、溶けるような安堵の息が洩れた。 「あー……、あったかい」 「君は冷たい………」 ぎゅう、と抱きついてくるのは左腕で、右腕は極力ロイへと触れないように縮められている。自らの身体に触れても冷たいだろうに、とも思ったが、もうろくに発言も動作も出来ず、ロイは疾っくに閉じていた瞼に誘われ、ゆるゆると眠りの淵を下った。顎の下で動く、冷えた金髪から外気が匂う。 「………大佐ー。オレさ、今日の夕方にはまた発つからさ」 次に会うときは年明けちゃってるよね、と呟く子供の声が遠い。ロイは小さくああ、と返したが、上手く音になったかどうかは解らない。 子供が笑う気配がした。 「おやすみ、大佐。……メリークリスマス。来年もよろしくな」 来年、と口の中で呟いて、ロイは僅かに夢想した。 冷たい鋼の右腕と左足に体温の戻った子供が、同じ金髪に穏やかな金の眼の少年の手を取り、楽し気に笑う様を。 「………来年は戻れるといいな」 「──────、」 ふいにはっきりと響いた声に子供がロイの顔を覗き込んだときには、大人は微かな寝息を立てていた。 |
■2005/1/17 クリスマス限定SS。フリーSSでしたが、現在は配付は終了しておりますので持ち帰らないでくださいませー。配付終了とともにデッドリンクしてましたがこっそり復帰させてみました。
初出:2004.12.25
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