囁く。
「ん」
渡された真新しい携帯電話に少年は瞬き、恋人を見上げた。
「…なにこれ」
「携帯」
「いやそりゃ分かるけど」
「君の携帯だよ。名義は私だが」
しれっとろくでもないことを言われた気がする。
少年は眉を顰めて突き返した。
「いらねぇ。オレも持ってるし」
「親に払わせているんだろう」
「…それが気に食わねぇの? ならバイトするし」
「学生の本分は勉強だ。学業が疎かになるようなアルバイトは許可できない」
「疎かになんかしねーって」
「君の志望校はバイトなどしていては」
「オレ天才だから平気」
「では私と会う時間は減ら」
「そんなん無理に決まってんだろ。…どうしろっての」
恋人は無言で再び携帯電話を差し出した。その綺麗にマニキュアの塗られた爪と携帯を見比べ、少年は溜息を吐く。
「…アンタに金とか、出させるつもりないんだけど。なんかそれって」
「ツバメのようか?」
「ツバメってなに」
「…………。…いや、気にするな」
それより、と何故かこほんと空咳をして、恋人は少年の手に携帯を握らせてほんのわずかに微笑んだ。
「私は君に責任がある」
「は?」
「君の親御さんに申し訳ないことはしたくないんだ。…電話をするなと言っても無駄なのだろうし、ならこれが一番だろう」
「……何言ってんの?」
「だから」
恋人は困ったような笑みを浮かべて少年の頬を僅かに撫でた。
「誰にも迷惑を掛けず、学業を疎かにしたりしないのであれば、電話くらい掛けても構わない、と言っているんだよ」
そう頻繁に会えるわけでもないのだし、せめて毎日声くらい。
少年はひとつ大きく瞬いて、話は終わりとばかりにさっさと笑みを納めて煙草をくわえた恋人の指からライターを取り上げ文句を言いたそうな唇から煙草も奪って、代わりに顔を寄せゆっくりと口付けた。
「……大事にする」
「そうしてくれると有難いよ」
「出世払いにしといてよ」
恋人は僅かに眉を顰め、何年後なんだ一体、と小さく不満げに呟いた。
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