窓のなか。
「あ! また煙草!」
反射的にごめんと謝る前に、「やめろっつってんだろ!」と指の間から奪われてかちんときた。
ので、思わず不機嫌な視線付きで口が出た。
「私が何をたしなもうと君の指図を受けるいわれはない。返しなさい」
エドは答えず、灰皿に煙草を押しつけくるりと向き直るとロイへ指を突きつけた。
「その言葉もどーにかしろよ! 女なんだから!」
「私の勝手だろう。…仕事場でもあるまいし、何故言葉にまで気を遣わなくてはならないんだ」
ふい、と横を向いてしまった横顔は一日を終えているというのに化粧の崩れもなくて、エドはその綺麗な鼻筋を見つめてしばしぽかんとした。
「…え、てことはオレは特別ってこと?」
「…は?」
「だって気ィ遣わなくて済むんだろ」
一瞬きょとんと素の顔をさらして、ロイはすぐに渋面を作る。
「馬鹿なことを言ってないでもう帰りなさい。電車がなくなる」
「そしたら泊まるからいいよ」
「迷惑。明日平日だし、君、テスト近いんだろう」
「あー、そっか」
いつもなら食い下がるエドはあっさり立ち上がり、鞄を拾った。
「んじゃ、帰る。また電話するから」
「…いらない。仕事中はどうせ切ってるし」
つれないね、と笑って軽く手を振り、さっと出て行った背中をつい呼び止めそうになったなんて。
あの子がいなくなったのに、煙草に手が伸ばせないなんて。
不可解過ぎて、理解できない。
私はおかしくなったのだろうか、と、ロイは夜の窓の中、赤くなったまま醒めない頬を乱暴に擦った。
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