光のむこう、きみが泣いてる。
(あ、ロイ)
雲を透かして天から降る光を浴びた、薄布のような明るい雨越しに思い掛けず恋人を見付け、エドワードは声を掛けることの出来る位置まで駆け寄ろうと踏み出した足をはっと止めた。
恋人は傘もなく、いつもは柔らかに揺れる黒髪を細い雨に濡らし、なにをするでもなくただ人待ちでもあるかのごとく街角に立ち尽くしていた。
その頬に、涙滴。
雨ではない、とエドワードは直感的に思う。
濡れた白い頬にとめどなく涙を流しながら、恋人の唇は薄く微笑んでいる。
では喜びの涙なのだろうか。けれどそれならどうして雨に隠す必要があるのだろう。
(……隠すためか?)
だから敢えて、微笑んでいるのだろうか。
ぐるぐると考えながら、エドワードはゆっくりと恋人へと近付き、傘を渡すべきかどうかを考えながらも結局決心が定まらず、恋人の背後をうつむき加減に通り過ぎた。恋人は気付かない。髪から覗いた小娘のように細いうなじが濡れている。
ふ、と、既視感。
そういえば二度目の出会いも、明るい雨の日だったのだ。
「ロイ!」
くるりと振り向き名を怒鳴ると、恋人は驚いた顔でエドワードを見た。
「エドワード?」
「ん!」
ぐっと差し出した傘を反射的に受け取った恋人にすぐさま背を向け走り出そうとしたエドワードの腕が、柔らかく掴まれた。シャツを通して雨が染みる。
「傘もなしに帰ったら家に着く頃には風邪を引いてしまうよ。うちで雨宿りして行きなさい。止まないようなら車を出してあげるから」
エドワードは振り向いた。恋人は偶然の逢瀬に気を良くしたかのように笑顔だ。その笑顔に、ん、と小さく頷いて、エドワードは素直に傘の下に納まった。恋人の髪から垂れた雨滴がぽつりとシャツに染みた。
笑みの中に涙の残滓を見い出すことは、もう出来なかった。
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