きいろ

 
 
 

「ロイー。ロイー」
 左手に繋いだ小さな手がぐいぐいと腕を引く。ロイは踏ん張っている吊り目の幼児を眉を顰めて見下ろした。
「なんだ」
「あれなに。さっきからいっぱいいる」
 指を差された方を見ると、両親に挟まれた楽し気な着物姿の女の子がいる。その向こうには、やはり両親に連れられた羽織袴の男児の姿。
「………ああ、七五三か?」
「しちごさん?」
「ああ。たしか男児が数えの五歳、女児が数えの三歳と七歳……」
 ぺとりとロイの右足に抱き着いてその身体の向こうから兄の指差す方を覗くアルフォンスの頭をぐりぐりと撫でながら言い掛けて、ロイはふと口を噤んだ。視線を落とすとこちらを見上げた金のつり目がきょとんとしている。
「かぞえって?」
「………いや、今は満でも構わんらしい」
「まんって?」
「それよりエドワード、君、去年七五三はしたのか」
「あーゆーカッコしたかってこと?」
「そう。それで父さんか母さんかもしくは両方と、神社に行って長い飴をもらう」
 エドワードはぱちくり、ともう一度瞬いて、明朗に「してない」と答えた。あー、と呻き、ロイは中空を睨む。
「……羽織袴の相場ってどの程度なんだ」
「はおりばかま?」
「……レンタルでいいのか? いやしかしホーエンハイム教授の子息がそれでは面目が立たないか……」
 あー、ともう一度呻き、ロイは溜息を吐いた。
「給料日前に出費はキツい……」
「ロイ? かねないのか? オヤジに言ってやろーか?」
「子供が金の心配をするな、大丈夫だ。食後のプリンまでちゃんと食わせてやる」
 弟に倣うように左足に抱き着いた幼児の頭をやはり弟にしたようにぐしぐしと撫でて、ロイは兄弟を交互に見下ろした。
「買い物に行こう」
「えーが行くんじゃなかったのか?」
「映画はまた今度だ。お前の着物を買いに行く。神社を詣でるのはまあ……次の日曜あたりでも構わんだろう。少々の遅れは大目に見てもらおう、仮にも神様なんだし」
 何気に不敬な発言をし、ぱちくり、と瞬く吊り上がった金の眼から真ん丸の金の眼に視線を移してロイは眼を細めた。
「アルフォンスの着物は来年だな」
「らいねん?」
「そう。来年で満五歳だろう。だから来年だ」
 ふうん? とよく解らない顔で首を捻ったアルフォンスの手を取り兄に手を差し出してぎゅっと握ったのを確認し、ロイは再び歩き出した。手を引かれた子供たちがとことことついてくる。
「ロイはやったのか?」
「七五三か? 記憶にないな」
「やってないのか」
「写真はあったが、どうも上手く親の都合がつかなくて神社には行っていないらしい。どっちにしても俺は憶えていないな」
 月末の家賃を気にしながら着物を買ってやったとして、ふーん、と頷いた金目の子供がそれを憶えているとは限らないが。
「………まあ、こういうものは子供が憶えているかどうかはそう重要ではないしな…」
「え?」
「俺が憶えていればいいという話だ」
「ロイは憶えてないんだろ?」
「俺の親は憶えていただろう、多分」
 
 
 ふーん、ともう一度呟いて首を傾げた兄といつもと違うホームへと降りて行くのに不思議そうにきょろきょろとあたりを見回している弟が、神社の石段で転び掛けたのを同行したヒューズとグレイシアに危うく抱えてもらったことや散る銀杏の柔らかな黄色まで憶えていたことを知るのは、これから10年先の後。

 
 
 
 
 

■2005/11/15
幼児パラレルは別に現代日本だと決めてたわけではないんですが、そういや七五三だなーと思ったものでつい。

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