我が家の躾
「大佐、書類を触らないでください。足跡がつきます」
机にきちんと座って書類にそっと前足を降ろそうとしていた黒猫は、ぴたりと動きを止めリザの顔を見ずにやはりそっと足を戻した。
前足を揃えてやや上目遣いにリザを見上げた猫に、リザはふと溜め息をつく。
「何かしたいのは分かりますが、猫の手ではサインも出来ないのですからおとなしくしていてください。エルリック兄弟が元に戻す方法を探してくれていますから」
猫はわずかに首を傾げて真っ黒な眼でリザを見つめる。真っ直なしっぽがぱた、と机を叩いた。
「少なくともアルフォンスくんは真面目に研究していてくれますよ」
黒猫がわずかに眼を細めた。
「そうですね、そう長くは拘束は出来ませんが…その時にはアームストロング少佐に依頼しましょう」
途端立ち上がり机から飛び降りようとした猫をリザは素早く抱き上げた。猫は耳を伏せ、ちらりとリザを仰ぎ見る。
リザは至極真面目に厳かに宣言した。
「早く元に戻っていただかなくては困ります。わがままをおっしゃらないでください」
黒猫は、声なくにあ、と鳴いた。
何故意思疎通が可能なのか不思議だ、と首を捻る部下たちに、副官の腕の中の猫はどことなく恨みがましい視線を向けた。
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