ねえ飼っていい?
「う、うん。天気いいからさ」
柔らかな子供の声が薄暗がりの鎧へ響く。
ひなたぼっこか、と尋ねた兄に答えたその声に毛並みを撫でられながら、黒猫は組んだ前足に顎を乗せ寝ころんだまま薄く片目を開けた。兄弟はぎこちなく天気の話をしている。
「そういや、大佐がいないって中尉が探してたんだけど」
何気無さを装った兄の言葉に、びくんと鎧が揺れた。
正直に過ぎるな、と考えながら黒猫は飛び起き外の気配を伺う。
僅かな沈黙。
「アル!! お前やっぱり腹に入れてるな!? 出せ!」
「ちょ、やめてよ兄さん!!」
「あんな万年発情期男をお前ン中に入れておけるかッ!!」
おい、とげんなりと耳を伏せかけた猫は、「今は猫だろ!」「まんま獣だってことだろ!」と微妙に失礼な兄弟の会話が終わらぬうちに思いきりシェイクされた足場に慌て、鉄の内部に爪を立てた。
しかしキキ、と小さく不快な音がしてほんの微かな傷が付いたのを知覚した瞬間、反射的に爪を退く。
彼は痛みを感じないのに、と自嘲する間もなく、やかましい足音と共にぐらんぐらんと揺れる鎧の中を転げ、上げそうになる悲鳴を必死で殺して猫は身を丸くした。
何故なら、足音に混じり切れ切れに届く少年の声が、未だ黒猫の存在を隠そうとするものだったからで。
黒猫は疾走する鎧の中、しっぽを丸めてころころと転げた。
「…あーあ、言わんこっちゃない」
ぐったりと目を回した弟の腹の中の猫を眺め、兄は呆れた溜め息をついた。
「た、大佐、大丈夫?」
気遣わしげに大きな両手に掬い上げられ、黒猫は声なく小さくにあ、と鳴く。その首をひょいと掴んだ兄をぐったりとぶら下がったまま睨む猫に、兄は鼻を鳴らした。
「やらしいこと考えてっからこーゆー目に遭うんだよ、無能猫」
「大佐具合悪いんだからやめてよ兄さん!」
兄の鼻面を引っ掻いてやろうと企んでいた猫は再び鉄の手に掬われその体温のない掌にくるまれて、まあいいか、とぱたりと顎と瞼を落として小さく喉を鳴らした。
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