飼い猫に手を噛まれる

 
 
 

 何でこんなことになっているのか解らない。

「って言ってるみたいだよ、兄さん」
「オレだって知らねーよ!」
 きちんと前足を揃えて座った猫は黒猫には珍しい暗闇色の眼で斜にエドを眺めた。
「むかつく」
「ちょ…兄さん!」
 やめなよかわいそうでしょ! と弟が庇うのと耳を引っ張った報復にみぎゃ、と威嚇した猫が兄の手を前足で叩くのがほぼ同時。
「アルッ、そいつ寄越せ! 爪立てやがった! しつけてやる!」
「しつけるって大佐なんだから!」
「だからだっつーの!」
 弟の腕の中ですましている猫を睨み、引っ掻かれた手の甲に息を吹きかけて、エドは溜め息をつく。
「しょーがねーな…とりあえず中尉のとこに」
 猫がびく、とすくんだのを目の端に捕らえ、エドは素知らぬ顔で続けた。
「や、それより戻るまでアルの中で飼うか?」
「え、いいの!?」

 猫ならなんでもいいのか弟よ。

 腕の中の猫は固まっている。この鎧の弟がやたらアクティブなことを知る身としては当然だろう。
 エドはにやりと笑って猫に顔を近づけ、顎を指でくすぐった。
「それと、オレに飼われるのとどれがいい、大佐? 元に戻す方法も探してやるぜ?」
「ボクだって探すよ」
 不満げなアルを仰ぎ見、けれどこの惨状を発見したときの少年のはしゃぎようを思い出したのか、猫は渋々と言った様子でぽんとエドの腕へと飛び移った。エドはにやにやと笑う。
「よしよし、可愛がってやるからな」
 猫は不満げににあ、と小さく鳴き、抗議するようにぱしぱしとしっぽでエドの腕を叩いた。


 
 
 
 
 

■2004/11/12

携帯メルSS。雑記にUPしてました。エドロイ風味でひとつ。

初出:2004.10.26

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