こりこりこり、とチョークが石の床に砕けて行く。ボクは鉄パイプの先に括り付けたチョークで線を書いていく。
 兄さんは「錬金術は使うな」って言うけど、きちんと錬成陣を書くのならきっと大丈夫だよね。

 錬成が終わるまで、ボクの身体は存在するよね。

 ボクはとてもうきうきしている。鼻歌とか歌っちゃいそうだけど、誰かに聞かれて覗かれたら困るので、ただじっと黙ってこりこりこり、と線を引く。
 あの日兄さんと二人で描いた錬成陣はきちんと記憶に残ってる。
 兄さんの作り上げた人体錬成理論はボクはきちんと理解している。

 あの日市場で買った材料はまるごといらない。代価はまるで必要無い。

 だってボクはエリクシールだからね。

 くすくす、と思わず笑ってしまう。ボクはうきうきしている。世界中の色が変わる。空気も光も水も大地も生き物も生きてはいないものも魂のあるものもないものもきらきらきらきら。

 ボクはボクで全。ボクはボクで一。

 ボクは流れ。ボクは世界。ボクは。

 ───ボクはかみさまと等価。

「出来た」

 がらん、とチョークを括った鉄パイプを放り捨てて、ボクは出来栄を眺め満足して頷いた。さあ、これでいい。
 これでボクはボクを取り戻す。もしも賢者の石が余ったら、それで兄さんの手足を造ってあげる。

 それでもう、兄さんは辛い旅なんかする必要がなくなる。
 ボクらは幸せになれる。

 ボクはヒトに生まれ変わる。
 ヒトから幽霊に、幽霊からかみさまに変化したボクは、今ようやくヒトに戻る。

 くすくすくす、と笑ってしまう。ボクはうきうきしている。

 世界の色が変わる。

 きらきら。きらきら。きらきら。

 ボクは両手を翳した。

「いきまーす」

 ばしん。と弾けて。

 世界の色が変わる。

 きらきらきらきら、きらきらきらきら。

 ────ぶつん、と音がして。

 ボクの世界は真っ暗に。


 
 
 
 
 

■2006/3/9

水の中から「はーい!」て出て来たアル見て賢者の石になったアルは気が狂っているとか思ってつい書いてしまったもの。

初出:2004.09.29

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