「はあ!? 何あんた、やりたいって言うからどっからやり方仕入れてきたのかと思ってたら、全然判ってないってどういうこと!?」
「お前が知っているのだから問題なかろう」
「何で俺様が知ってると思うわけ!?」
「忍びだからだが」
後ろ暗いことには通じているんだろうと真顔で言われて、佐助はうんざりと目を閉じた。
「そりゃ……知らない訳じゃないけど、でも知識があるのと経験があるのは全然別なんですけど、主殿?」
衆道なんか知らねえよ、と苦々しく言えば、幸村は重々しく頷いた。
「承知だ」
「承知なのかよ!」
「だから試してみようと言うのだ。某もまあ、多少は見聞きした」
「うわっ、旦那がこんなもん見聞き!? 凄いな異常事態だよ。破廉恥だなあ旦那ってば」
「うるさい。お前相手だからいいのだ」
どういう意味だそりゃ、と首を傾げる間に、さっさと帯が解かれて着物をはだけられた。佐助は憮然として、幸村の襟に手を掛ける。
「ちょっと、俺様ばっかり脱がしてないで、あんたも脱げよ」
それとも脱がして欲しいの、と言えば手を払われて、生真面目な顔をしたまま幸村はさっさと自分の着物を脱ぎ捨てる。其れを横目に佐助は乱された着物から袖を抜き、此方もさっさと裸になった。
「いざ!」
「なんだその掛け声!」
ぐいと押し倒されながらの言葉に即座に突っ込んで、佐助は額を抱える。
「もう、なんだよ別に色気とか雰囲気とかそういうのあんたに求めてる訳じゃないけど、もうちょっと何かさ……ってちょ、待、痛えってばか! なんかで濡らせよ入るわけねえだろ! ていうかいきなり前戯も無しってどう言うこと!?」
じたばたと手足をばたつかせて逃げれば、憮然とした幸村にじとりと睨まれた。苦々しく睨み返し、佐助は脱ぎ捨てた着物を漁る。
「ほら」
ぽいと軟膏を投げ渡せば、暫く矯めつ眇めつ眺めて居た幸村はおもむろに指に取った。
「ほんっと一切前戯無しなんだな、あんた……女相手にしたら怒られるよ、それ。無粋にもほどがあるんじゃない、の……て、ほんと、痛いんだけど! も、ちょっと考えて……」
「佐助」
天井を睨みながらぶつぶつと文句を垂れていた佐助の視界に、名を呼んだ主の顔が覗いた。笑みの一つもないその顔に僅かに口を噤むと、幸村はちらりと眉間に皺を寄せる。
「煩い」
「はあ? そりゃあんたが無体だか、」
再び文句を吐き始めた口にぐい、と数本の指を突っ込まれて、思わず僅かに嘔吐くと深く差し込まれていた其れがすと引かれた。其れでも未だ舌に触れて居るかさついた意外と太い指に軽く歯を立てて、佐助は主を睨んだ。幸村は頓着せずに、つと再び顔を下方を向ける。その視線の先に己の躯があることを否応なく思い、居たたまれなくなって佐助は低く唸って目を閉じた。
20070315
初出:20070215
芥
虫
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