20061115〜1210まで設置

 
 
 
 
 
 
 ぱらぱらと撒いた餌を突いている烏の太い嘴を見ながら、佐助はしゃがみ込んだ膝に頬杖を突いた。ぴんぴんと跳ねる尾先が青い。
「お前、早く真っ黒になっちまえよ。そんなにきらきら青いおっぽじゃお使いもさせらんないったら」
 餌を突いていた嘴を上げて、真っ黒で真ん丸な目が佐助を見上げた。かあと一声。佐助はにやりと笑って己の跳ねた髪をふわふわと触る。
「何? こんな頭のに言われたかないって? 俺のこれはいいんだよ」
 武田の色みたいじゃないのと笑ってもう一度頬杖を突き、再び餌を食べ始めた烏の丸い頭を眺めてよしよしと指先で撫でる。つるつるとした手触り。
「ああ、どうせならお前、赤くなっちまえばいいのにな」
 頻りに餌を食べていた烏が、邪魔にするようにばさばさと羽撃いた。手を放せばぶるりと羽毛を逆立てて、ゆっくりと大きな羽を畳む。
 かあ、ともう一声。佐助は笑った。
「余計に忍びにくいって? まあ、お前に頭巾を被せるわけにもいかないし……」
 ふと、言葉を切って佐助は近寄る気配に気を向けた。遅れてぴくんと頭を上げた烏の嘴の下を擽って宥める。
「大丈夫、お食べ」
「おお、佐助! 此処に居たか!」
 ばたばたとやって来た主の声に、烏が餌を突くのを見届けてから、佐助はゆるりと立ち上がり振り向いた。
「どうしたよ、旦那」
「ああ、餌遣りの途中であったか、すまなかった。だがちょっと来てくれ! お館様がお呼びだ!」
「あんたが呼びに来んでも、誰か下男でも寄越せば良かっただろうに」
 溜息を吐くふりをしつつ了解と頷いて、佐助は主の赤い背に付いて歩いた。振り向く。烏がこちらを見て、
 かあと一声。
 佐助はひとつ笑ってかあと声真似を返して、何事だと振り向いた主に、また笑ってかあと鳴いた。

 
 
青 眼

主人にかあと応える烏。