20070623〜0716まで設置
「なあ………、佐助」 「んー?」 思ったよりしんどい、と呻いて腕の中でぐったりとしていた忍びが、やる気の無いいらえを返す。其の肩を抱き、髪を撫でながら幸村は首を捻った。 「どうも、以前にもこうして、お前と抱き合った様な気がするのだが……」 「嗚呼、うん、ありますよ。別に今日が初めてじゃないって」 「はあ!?」 がば、と飛び起きると、寒っ、と呟いた佐助ははね除けられた布団を引き上げ、ぎゅうぎゅうと引っ張って躯に巻き付けた。 「何を寒がる! もう夏だ!」 「此の梅雨時期に素っ裸で寒くないわけないでしょうが。汗も冷えたし」 「軟弱な事を……い、いや、そうでは無くて」 「嗚呼、だから、前にさあ、あんた酔っぱらって、俺を布団に引き摺り込んだ事があんの」 「な………」 「布団に引きずり込んで着物剥かれて、何そういうのなの、って吃驚したけどまあしょうがねえかなって覚悟固めたとこに、何でお前が此処にいるとか言われてさあ。ほんとの事言えばあんたに恥掻かすし、それもどうかなあと思って、咄嗟に夢だって言ったらあんた、そうか夢かって納得しちゃって」 ぐるり、と天地の回る様な心持ちがした。破廉恥、と叫び出しそうになって流石に深夜、此の状況に声を聞き付けた誰かが飛び込んでくれば居たたまれないと、慌てて口を噤む。 「心配しなくても、」 幸村の慌てぶりをにやにやと見上げていた忍びは、とろりと眠そうに目を細めた。くわ、と一つ欠伸をする。 「最後までやっちゃねえからさ」 「佐助!! は、は、破廉恥であるぞ!!」 「だってさあ。寝惚けた酔っ払いじゃ勃たねえから、使い物になんねえし」 「佐助え!!」 「騒がないでよ。夜中、夜中」 にゅ、と布団の隙間から出た手がぽんぽんと腹を叩いて、幸村は慌てて口を閉じ、顔に血を上らせたまま、むすりと半眼になった。 「………今告げられては、結局恥を掻いたに違いは無いだろう……」 「でもま、笑い話で済むじゃないの。こういうの済ませる前じゃ、あんた、ばつが悪いじゃ済まなかったでしょ。なんて事をしたのだ叱って下されお館様、とか大将にぶちまけられても、今度は俺様が立つ瀬がないし」 半ば俯せに丸くなった忍びは目を閉じて、もごもごと聞き取りにくい声で言う。 「だからまあ、勘弁してよ。馬鹿馬鹿しい事態ではあったけど、俺様だってそれなり、動揺したんだからさ。ほんとに寝惚けてただけなら、言わない方が、絶対良いし」 「………良く喋るな、佐助」 「あー……そうね、今日は口が軽いね」 御免ね、とちらと見た目は矢張りとろりと光を流して、幸村は溜息を吐き、布団を半分奪い返して横たわり、細い躯を引き寄せた。 冷え掛けた膚は直ぐに己の熱を移して温まり、幸村はその半端な体温が次第に熱を帯びるのを感じながら、頬を擽った髪を噛んだ。 |
酔い醒めの水は甘露の味
今年の梅雨のさなかの話。