20070623〜0716まで設置
はね除けた布団を直そうとしたのか、首元に触れた手がひんやりと心地良くて、思わず掴んだ。手は大人しく掴まれた儘で、じゃれつけば直ぐに己の体温を移して温くなり、それを嫌って手首を掴めば其方の方が冷たくて、つと袖に忍ぶ様に指を差し込めば漸く僅かに腕が逃げた。 けれどそれは拒む仕種と言うよりもじゃれ合いの延長の様で、何だか可笑しくなって、緩く逃げる腕を引き、倒れ込んだ躯を引き寄せ抱き付くと、鼻先に触れた膚が冷たい。 心地良い、と呟いて、熱い息を吐き、鼻先で衿を押し退け、肉の薄い膚を辿れば、擽ったいのか僅かに首を竦めた気配がして、頬に柔らかな髪が触れた。 着物の合間から腕を差し込みさらさらと汗を掻かない背を撫でながら、柔らかな髪を噛む。頬に触れる其れが、切り立てなのか僅かにちくちくと頬を刺して、幸村はちらりと眉を寄せた。うっすらと眼を開く。 月明かりに、橙。 「…………、……佐助?」 「はい?」 呼べば、抱え込んだ躯に慣れ親しんだ声が響いて震えた。 半ば伏せられていた瞼を、幸村は暫し見詰める。 「お前、何故おれの布団に居るのだ?」 「はあ?」 ばち、と瞼を跳ね上げて、頓狂な声を上げた佐助は、大方露わになった膚も其の儘に、嗚呼、ううん、と唸ると視線を空に這わせ、此の酔っ払い、と小さく毒突く。 「酔ってなど、」 「嗚呼、うん、夢だって、夢夢」 むっとして反駁仕掛けた幸村を遮って、佐助がにこりと笑った。 「夢?」 「そ、夢なの。あんた寝てんの」 言って、頬につと、また冷たくなり始めた指先が触れ、唇で食む様に、温く心地良く口付けられた。柔らかな感触は、冷たいながらも薄い筋肉に覆われた、硬い骨を直ぐ下に感じる膚とはまるで違う感触で、幸村は思わず目を細める。 「気持ちいいでしょ?」 「うむ……」 「夢だからね」 何にも気にしなくて良いの、と言った佐助に、ふうんと呟き、何処か寝惚けた意識の儘、なら良いのか、と幸村ははだけた膚を再びぎゅうと抱き寄せた。 |
酔い醒めの水は甘露の味
去年の夏の終わりの話。