20070225〜0324まで設置

 
 
 
 
 
 
「よくやりましたね、わたくしのうつくしきつるぎよ」
「……違う」
「ほうびをあげなくてはなりませんね」
「全然違う」
「びしゃもんてんのかごがありますよ」
「違う! まったくなってない!」
「うもー」
 ぼりぼりと赤い髪に手を突っ込んで掻き、佐助はうんざりと溜息を吐いた。
「お前じゃなきゃ完璧! って言うってこれ」
「どこがだ! どこも似てないじゃないか!」
「幸村ぁ!!」
「な…っ、た、武田信玄!? 何処だ!?」
「ここでーす」
 枝の付け根にしゃがみ込んだまま軽く手を上げ、佐助はほらな、と唇を曲げて見せた。
「俺様の声色、なかなかのもんだろ?」
「そっ……それは、いつも聞いている人間の声だから……」
「他のもする?」
「べ、別にいい」
 幾ら天敵とも言える武田の総大将の声色に頭に血が上ったとは言え、容易く騙されたのが屈辱なのかかすがはくっと唇を噛み締めた。その顔に紅色を認めてやれやれと肩を竦め、佐助は頬杖を突く。
「まあったく、恋ってのは凄いもんだねえ」
「なっ! そ、そんな邪な思いであの方の側にあるわけではないっ!」
「あれ、そうなの? んじゃ、俺と付き合ってみ、」
「断る」
 声の冷ややかさにちぇ、と笑って、佐助は首を傾げ、かすがを眺めた。
「………な、なんだ」
 じっと見詰める目に僅かに怯み、かすがは軽く顎を引く。佐助は頬杖を突いたままとんとん、と小さくこめかみを指で叩き、ゆっくりと口を開いた。
「───あいしていますよ、わたくしのうつくしきつるぎ」
「あ、」
 途端、かあっと膚という膚を鮮やかに血色に染めて、素早くかすがの両腕が舞った。上杉総大将直臣の忍びにしてはほとんどでたらめに近い動きで投げられた大量の苦無は、一瞬前まで佐助の居た枝とその脇の幹に激しい音を立てて突き刺さる。
「そっ、そんな軽々しい言葉をあの方は使わない!!」
 叫ぶと同時に身を翻し、あっと言う間に遠離ってしまった靡く金の髪を一段上の枝にぶら下がったまま見送った佐助は、あらら、と小さく苦笑して苦無の刺さる枝へと戻った。一本を抜いて、くるくると指の上で回す。
「軍神も難儀なこった」
 あれだってただの人間だろうにと肩を竦めて、佐助は手慰みにしていた苦無を放った。
 風切り音の無い仕上がりのいい苦無は遙か向こうの幹に突き刺さり、その乾いた音が響いた時には、佐助の姿ももう無かった。

 
 
鼠鳴き

一瞬ときめいちゃった自己嫌悪かすが。