ふんふんと鼻を鳴らして顔を寄せ、においを嗅ぐ仕種は獣そのものだ。
好きにさせながら脇のあたりに鼻面を突っ込んでいる赤い髪に指を差し込み梳くと、ぶると頭が振られて手を払われた。邪魔をするな、とでも言うところか。
元親はちらと既に一糸纏わぬ姿となった赤い髪の男を見遣る。脚の間の証は愛撫らしいことは何もしてやっていないと言うのに緩く立ち上がり、発情した獣の様だと再び思う。
声もなく真っ直ぐに立つ姿は禁欲的ですらあるのに、少しばかり距離をつめれば此れは獣そのものだ。獣の色欲は、人の色欲とは違う。食事や排泄や睡眠と、同等のものだ。
「お、」
余所事を考えていた事を咎めたわけではないのだろうが、べろり、とまさに咎めるような呼吸で臍の横を舐められて、元親は寄り掛かっていた麻袋から、軽く頭を上げた。ちら、と前髪の合間から覗いた黒い目は、直ぐに肌に視線を戻す。脾腹の赤い傷跡が、気になったものらしい。
「そりゃあ、もう治ってる。火傷の跡だ」
ふん、と鼻が鳴らされて、無造作な手が内腿に触れた。そのままがぱり、と開いた口が雄へと食い付きそうになるのに、おっと、と呟き元親は腕を伸ばす。
「おいおい、そんなに旨そうかよ? だがそりゃあ、食うもんじゃあ、ねえぜ」
尖った歯の生える、普段からは思いも寄らないほどに大きな人外じみた口に指を差し込み優しく咎めると、小太郎はその歯の鋭さと異様さからは思いも付かぬほどに従順に顔を上げた。
「我慢出来ねえか? あんたが満足するのを、待ってたんだが……」
ゆる、と長い舌が口の中で唾液を絡ませ蛭の様に蠢く。
その粘膜に指を絡めて暫し戯れ、元親はゆっくりと身を起こして堅く骨張った躯を押し倒した。
「ま、欲しいってんなら、待つ事もねえな。食うよりずっと、愉しいぜ。食えば仕舞いだが、こいつがありゃあ、またあんたの気が向いた時に、何度でもしてやれるからな」
だから食うんじゃあねえぜ、と額の上で囁けば、小太郎は触れた息に目を細めて、赤い裂け目の様な口を閉じた。
20081014
初出:20080427
芥
虫
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