むつはなごと

 
 
 
 
 
 

「もうほんと、取り巻きが美人ばっかりなの! 超美尻に美乳! 本気で殺意湧いたね、風来坊のくせに! なのにあいつ一人も手ェ出してないってんだぜ。不能ってわけでも男色ってわけでもなさそうなのに、なんだろ、あんななりして童貞とか?」
 ははまさかね、と笑い、佐助ははあ、と切なく溜息を吐いた。
「あー……ほんと、おっぱい触りてえ……」
「………佐助、お前」
 ごろり、と胡座に頭を乗せていた主が寝返りを打った。瞼の上に乗せていた腕がずれ、目が覗く。
「此の様な時に女子の話など、止せ」
 先程までの熱さを落とし、うとうとと微睡んでいた主は気怠げに低く呻いた。佐助は唇を尖らせる。
「何だよ、旦那は女、嫌いなの」
「色に狂う様ではお館様のお役には」
「不能?」
「勃つわ! お前先程まで何を、」
「男にしか勃たねえんじゃ、ちょっと情けねえよ」
「誰がそのような事を言っておるのだ! そうではなくだな、」
「なんだ、ちゃんと女かわいいって思うんだ。それなら今度一緒に花街にでも」
「佐助!!」
「だってさあ、」
 佐助は指折り数えて嘆いた。
「戦なんか男ばっかりだし、任務に出れば色欲なんかに惑わされるわけにもいねえし、閨に呼んでくれるのは旦那だけなんて」
「………お前、おれと寝るのは厭か」
「誰もそんなこと言ってないでしょー」
 幾分か萎れた主に覆い被さり先程から足を痺れさせている頭をぎゅうぎゅうと抱えて、佐助はごろごろと頬擦りした。
「でもさあ、たまにはおっぱいに顔埋めたくもなるって」
 やわらかくって気持ち良いんだよ、とうっとりと言えば、主がもぞりと動いた。身を離すと、半分起き上がった主の真摯な顔が下から覗く。
 かと思えばぐるりと巻き付いた意外と長い腕が、胴を締め上げた。思わずぐふ、と呻いた佐助を余所に、平らな胸に顔が押し付けられる。
「ちょ、なに、俺様おっぱいないんですけど……」
「おれには違わぬ」
「はあ?」
「おれは女子は未だ知らぬが、お前の躯が劣るとは思わぬ」
「いや、それはちょっと女に失礼っていうか……俺にも失礼っていうか……」
「ん?」
 心底心地良さそうにしていた主が目を上げ、ゆるりと笑った。深々と溜息を吐き、佐助はいや、と項垂れる。
「もう良いです……」
「そうか」
「あとその、尻撫でるの止めてくれますか」
「別のところがいいのか」
「何それ旦那やらしい!」
 ぎゃっと喚いて腕を引き剥がすと、素直に離れたかのように思えた主は直ぐに覆い被さって来た。どったん、と勢いよく押し倒されて、佐助はああもう、と嘆いて片手を額に当てる。
「未だ宵の口だぞ、佐助」
「嘘吐くなよ! もう直朝方じゃねえか! あと一刻もせずにお天道様が昇るよ!」
「なに、日が昇る前には済む」
 横暴過ぎる、とぼやく佐助にく、と唇の端で笑い、主が優しく鼻先へと歯を立てた。
「佐助」
「なに?」
「おれは女子は小柄な方が、好ましいと思う」
「………こんな時におなごの話するなんて、無粋もいいとこだっつうの!」
 むう、と態と唇を尖らせ同じ事を返せば、主はまた可笑しそうに笑い、ゆっくりと佐助の薄い唇を食んだ。

 
 
 
 
 
 
 
20090517
睦花言

人様とだんなは小さい胸が好きだといいというお話をしてた