小春の日

 
 
 
 
 
 

 細く取られた天窓から昼の明かりが差し込んでいる。外は秋風に随分と気温を落としていたが、此の古い倉の中はあたたかなものだ。
 まるで春の陽気のようなあたたかさに己は眠気を誘われたのだが主は違った方を刺激されたらしい、と佐助はゆるく壁に押し付けられながら先程から柔らかな口付けを繰り返している幸村の好きなようにさせ、薄く目を開き光の中踊る埃の影を見た。きらきらとして本当に春めいている。此れから厳しい冬が来るというのに、まったく呑気なものだ。
 明日も晴れるといいな、と中断してしまった書物の虫干しの続きを諦めて、佐助はゆると合わせに侵入していた熱い手に、ふ、と笑って身を捩った。
「擽ってえって、だんな……っ、」
 さらさらと乾いた肌を羽根で擽るように撫でた手が、言葉の語尾を攫うようにまだ目立たない胸の頂きに触れた。そのまま時折尖りの先を掠めながらゆるゆると周囲を撫でる手付きは、興奮に焦っているときのものではない。なんとなくその気になっただけで、こうして誰もおらぬ影で密会のように触れているのが、楽しいのだろう。
 その証拠にか、佐助がぴくりと肌を震わすたび、啄むように口付けを繰り返す唇が笑う。
「も……笑ってんじゃ、」
「愛い」
「ば、なに、言って……っあ、」
 くん、と腰を突き上げるようにふいに走った疼きに、佐助は思わず主の袖を掴んだ。もどかしい指の動きにみるみるうちに熱が上がる。汗を掻き始めたのか、緩みほとんど肩から落ちた合わせから侵入した幸村の手が腰を抱くと、ひたりと吸い付くような感触がした。未だしっかりと結ばれた帯に邪魔をされた手が、尾てい骨の僅か上を支える。
 その、女の腰を抱くような手の力強さとは裏腹に、胸を擽る指は相変わらず触れるか触れないかといった微かな刺激しか寄越してくれない。
「んっ……だ、んなぁ……」
 ぐ、と袖を握る手に隠る力を止められない。尿意に近い感覚を覚えた気がして思わず下腹に力を込めると、勝手に爪先が撓った。均衡を崩した躯を腰を支える手がしっかと抱き、涙に揺れる視界で間近に覗く主が、丸い目で不思議そうに覗き込んだ。
「悦いのか」
「わ、わかんな、い、けど……っ」
 ひく、ひくと本来なにもないはずの、女であれば膣かと思われるあたりが、物欲しげに震えている。ゆるく開いていた脚の合間に幸村が膝を入れ、更に増した安定感に佐助はほう、と息を吐いた。
「───っひ、あ、ああ……ッ」
 その、力の抜け切った瞬間を狙ったように、切り揃えた爪の先が胸の頂きにちくり、と触れた。途端激しく撓った躯を抱え込み、幸村のがさがさと荒れた手が乳房を揉むかのように胸を包む。全身を駆けた激しい快感の中、その手の熱だけがぽかりと温かく感じ、佐助は握り締めた袖を離さぬまま主の肩へと縋った。
「あ、………ぁ」
 すう、と爆発的な光が引くと同時にかくりと力の抜けた膝が弛む。支える主が佐助がへたり込むのに合わせてか腰を下ろし、まだ袖を掴んだまま息を荒くするその顔を覗き込んだ。
 つう、と涙に濡れた頬を撫でる手が冷たいように感じる。その、擽る感触に、さわ、と毛羽立つように肌が粟立った。
「達ったのか?」
「わ、かん……な、」
 頬を撫でていた手が、敏感になった片側の胸に再び触れた。火照る頬には冷たく感じた掌は熱く、尖りを擦り遊ぶ。
「だ、だんな……も、や、」
「もう少し付き合え」
「だんなぁ……」
 興味深げに覗き込む主が、瞳を細めて笑った。
「愛いな、佐助」
 珍しい、と言った笑んだままの唇がちゅ、と音を立てて口付けたが、その可愛らしい仕種をからかう間もなく再び迫り上がった快感に、佐助は主の肩へと縋りびくびくと背を震わせた。

 
 
 
 
 
 
 
20091018
初出:20091009

ドライの話してたら書きたくなった だけ