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「ッたく、どこにいやがる」
 打ち上げられた流木に手を掛けどろどろの斜面から見下ろしながら呟いた土方に、水を嫌って乾いた土手に上っていた沖田が地面に伏せたまま目を細めた。その目付きさえなければ典型的なアイルー模様のアイルーだというのに、大きな緑の眼を剣呑に細める様が他の猫たちと一線を画している。
 とはいえ近藤の前などでは始終喉を鳴らしてごろごろとかわいらしく振る舞っているのだから、この自分が嫌われているだけなのかもしれないが。
「土方さんってほんっと狩り運ないですよねえ。せっかく僕がその気になったってのに」
「馬鹿、いつでも本気でやれってんだ。せめて俺の邪魔をするんじゃねえよ」
 仕方ないでしょ、と沖田は緑の眼を半眼にしたまま鼻を鳴らす。
「獲物のいるところにあなたが滑り込んでくるんだから。土方さんさえ邪魔しなきゃ、ちゃんと獲物に爆弾当たるんですよ」
「俺のせいかよ」
「雑魚なんか土方さんじゃなくたって倒せますよ。なんならアオアシラだって僕だけで仕留めてみせますし」
「………まあ、お前の腕は解ってるけどな」
 溜息を吐き、太刀の柄にてを掛け背負い直した土方から疾うに視線を外していた沖田が、ふいにぴくりとひげを震わせ耳を立てた。く、く、と耳だけが忙しなく前後左右へと向き、かと思えばすぐにぱっと身を起こす。
「来ましたよ、土方さん。やっぱり蜂の巣のとこです」
「よし、」
 今度はすぐに抜き放つために柄に手を掛け、土方は唇の端を吊り上げて嗤った。
「行くか」
 駆け出した後をぴょん、と跳ねるように土手を飛び降りた沖田が四つ足で追い掛けてくるのを眼の端に引っ掛け、土方は湿った木々を掻き分け蜂の巣を目指した。
 
 
 
 
 
 差し込む朝日と早起きの小鳥の声にぴくぴくと耳を揺らして、千鶴は瞼を上げた。むく、と起き上がり隣のクッションを見るも、誰もいない。
 当然ベッドの上も空で、やたらと広く感じるがらんとした室内をぼんやりと見渡してそれから千鶴はうーん、と躯を伸ばした。ぶるぶるぶる、と毛皮の中へと新鮮な少しひんやりとした朝の空気を取り込む。
 鳥かごの鳥の食事と水を用意し一人分の朝食を作り食べて、いつもより少し念入りに掃除をする。しかしここ二日ひとりでいる家はさほど散らかってもいなくて、まだ村に朝食のかまどの煙が立つうちに洗濯まで済んでしまった。
「おお、雪村くんじゃないか。一人なのか?」
 農場の様子でも見てこようかな、あそこなら平助くんも原田さんも永倉さんもいるし、と考えながら外へ出た千鶴は、少しばかり懐かしい明るい声にいつの間にか項垂れていた顔をはっと上げた。にゃん、としっぽと耳をぴんと立てる。
「近藤さん! お久しぶりです!」
 ぴょんぴょんと喜びのままに駆け寄ると、大きな背負い袋に何匹ものアイルーを乗せた近藤は微塵の影も見せない太陽のような笑顔で迎えてくれた。